仙台高等裁判所 昭和28年(ネ)198号 判決
控訴代理人は(一)原判決を取消す (二)被控訴人奥川村農業委員会が昭和二十三年三月十六日別紙目録記載の農地につき売渡の相手方を控訴人として樹立した売渡計画につき同委員会が同年十一月九日なした取消処分の存在しないことを確認する (三)同委員会が昭和二十五年一月十日右農地につき売渡の相手方を被控訴人佐藤藤雄、佐藤丑蔵、佐藤周三、猪俣ヨシイとする売渡計画を樹立した処分の存在しないことを確認する (四)右(三)の請求が理由のないときは(三)に掲げた処分の無効であることを確認する。(五)右(三)(四)の請求の理由のないときは同委員会が昭和二十五年一月十日右農地につき樹立した売渡の相手方を被控訴人佐藤藤雄、佐藤丑蔵、佐藤周三、猪俣ヨシイとする売渡計画を取消す (六)福島県農業委員会が昭和二十六年二月五日附を以てした控訴人の訴願を棄却する旨の裁決を取消す (七)被控訴人佐藤藤雄、佐藤丑蔵、佐藤周三、猪俣ヨシイは前記農地が控訴人の所有であることを確認せよ (八)訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とするとの判決を求め、被控訴人等代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は控訴代理人において
一、別紙目録記載の農地は元訴外佐藤治郎兵エの所有であつたが昭和七年三月中控訴人においてこれを代金千円で買受けることと為り同十九年六月二十二日代金全額を支払つた結果控訴人の所有に帰したものであるところ登記手続を経なかつたため昭和二十二年七月二日不在地主治郎兵エ所有の小作地として政府に買収された。被控訴人奥川村農業委員会(以下単に村農委と称する)は同二十三年三月十六日右農地につき売渡の相手方を控訴人とした売渡計画(以下単に第一次売渡計画と称する)を樹立し福島県知事は同年十月一日附を以てこれが売渡通知書を控訴人に交付したので控訴人は同二十四年二月二十五日買受の対価を支払い売渡通知に定められた売渡の時期である昭和二十二年三月三十一日その所有権を取得した。然るに同村農委は同二十三年十一月九日前記の売渡計画を取消し同二十五年一月十日新に同一農地につき別紙目録一らん表記載のように売渡の相手方を被控訴人藤雄、丑蔵、周三、ヨシイとした売渡計画(以下第二次売渡計画と称する)を樹立したと称し控訴人の取得した権利を侵害しようとしているのであるが、同村農委においては同年十一月九日第一次売渡計画を取消す旨の決議をしたこともその公告をしたことも控訴人にその旨を何等かの方法で告知したこともなく、同二十五年一月十日第二次売渡計画を樹立する決議をしたこともその公告をしたことも全くなく従てこれ等決議を前提とする処分も存在しないのであるから右第一次売渡計画の取消と第二次売渡計画樹立の各行政処分の存在しないことの確認を求める次第である。
二、仮に村農委において第一次売渡計画を取消し第二次売渡計画を樹立してその旨を公告した事実があつたとしてもこの処分は次の理由によつて無効であるか少くとも違法として取消を免れないものである。
即ち(イ)右農地の第一順位の売渡の相手方である被控訴人藤雄、丑蔵、周三、ヨシイ等小作人が買受の申込をしなかつたため控訴人を第二順位の売渡の相手方として定めた第一次売渡計画及びこれに基く売渡処分が違法であるとしてもその違法は単に売渡の相手方の資格に関する事実の誤認に過ぎないから右売渡計画、売渡処分を当然無効ならしめるものでない。然るに福島県知事は第二次売渡計画樹立当時迄控訴人に対する売渡処分を取消した事実がないのであるから右農地は第二次売渡計画樹立当時尚控訴人の所有に属していたものである。従つて政府の所有に属していない農地につき為された第二次売渡計画は当然無効であるか少くとも違法として取消を免れないものといわなければならない。よつて控訴人は第二次売渡計画が立てられ且つその公告があつたものとせば請求の趣旨(四)(五)の通りの判決を求めるものである。
三、叙上の通り前示村農委の各行政処分は違法であるから控訴人はこれを理由として村農委に対して異議を申立てついで福島県農業委員会に対し訴願を提起したのであるが同委員会はこれ等の違法を看過して控訴人の主張を排斥し訴願棄却の裁決をしたのでその取消を求める。
と述べ、被控訴人等代理人において
一、被控訴村農委は昭和二十三年十一月九日開催の委員会において控訴人を売渡の相手方とした第一次売渡計画は買収当時の耕作人でないものを売渡の相手方とした違法誤謬のあることを発見したので同日自らこれを取消すと共に買収の時期における耕作者である被控訴人藤雄、丑蔵、周三、ヨシイを相手方として売渡すべきことを一括決議した。但し第一次売渡計画の取消と第二次売渡計画の樹立については福島県農業委員会(福島県知事受継前の被控訴人)の承認を必要とするので、村農委はこれが承認方を同県農委に一括申請した結果昭和二十四年十一月十四日その承認(福島県農委指令第二七七号)を得た。
二、第一次売渡計画取消のことは控訴人は前記決議のあつた当日又はその直後にこれを知得したのであるが、村農委は決議の直後専任書記をして口頭を以てその旨を控訴人に告知させ、更に昭和二十五年八月二十二日文書を以て同趣旨の通知をした。
三、結局第一次売渡計画の誤謬は第二次売渡計画と同時に昭和二十四年十一月十四日県農委の承認によつて訂正取消されたものである。
と述べた外原判決事実摘示と同一であるから茲にこれを引用する。(証拠省略)
三、理 由
別紙目録記載の田地は元訴外佐藤治郎兵エの所有に属していたものであるところ不在地主の小作地として控訴人主張の頃政府に買収されたものであること、昭和二十三年三月十六日所轄の被控訴村農委が売渡の相手方を控訴人とした右農地の売渡計画を立て同年十月一日附売渡通知書を以て売渡の時期を昭和二十二年三月三十一日として福島県知事から控訴人に売渡の手続がなされたこと、同村農委が同二十三年十一月九日控訴人に対する右第一次売渡計画を取消しついで昭和二十五年一月十日被控訴人藤雄、丑蔵、周三、ヨシイを売渡の相手方とする別紙目録一らん表通りの該農地第二次売渡計画を立てたと称して右新計画に基く売渡の手続をしたこと、控訴人が第一次売渡計画の取消及び第二次売渡計画の樹立に対し異議を申立てついで訴願を提起したがいずれも棄却されたことはすべて当事者間に争のないところである。
控訴人はまず第一次売渡計画の取消第二次売渡計画の樹立については村農委の決議がなく従てこれ等決議の存在を前提とした取消又は計画樹立の各行政処分は存在しないものであると主張するのでこの点について按ずるに、原審証人長谷川貞喜、佐藤彌吉、薄享二当審証人矢部美津喜、荒海武雄の各証言、右各証言に徴し真正に成立したと認められる甲第六号証に原審証人三瓶虎雄、矢部喜四郎、小林四郎、玉木清二の証言の各一部を綜合すれば、そもそも本件農地の買収された当時耕作の業務を営んでいた小作人は被控訴人藤雄、丑蔵、周三、ヨシイの四名であつて控訴人は未だ曾てこれが小作は勿論自作すらしたことのない者であり而も後に認定の通り右被控訴人四名は買収当時それぞれこれが買受の申込をしていたものであるところ同村農委は第一次売渡計画に基く控訴人に対する売渡手続後福島県庁農地係職員から本件農地の売渡がその順位において相手方を誤つた違法のものである旨を指摘されたので、たまたま昭和二十三年十一月九日開催された委員会において右の件を議題に供し協議した結果第一次売渡計画を右の理由によつて取消し買収当時の小作人たる前記四名の被控訴人等に改めて売渡を為すべき旨を決議した上その頃担当職員をしてこの旨控訴人に告知させ他方新計画の樹立及び旧計画の取消につき福島県農業委員会の承認を求めた結果同委員会の承認があつたので昭和二十五年一月十日本件係争の第二次売渡計画を樹立し制規の通りの公告手続を履践した事実を肯認することが出来る。尤も前掲の証拠によれば同村農委の農地解放に関する買収売渡等の事務処理は必ずしも常に正確で迅速であつたとは認め難いふしが窺われ、控訴人に対する売渡通知書が一年余も村農委事務所の机の抽斗に放置されていた位であり、又会議録の如きも開会の都度には作成されず現に前掲甲第六号証会議録にも署名員の署名が欠けている仕末であつて従つて同村農委の事務処理に対しては疑わくの目を向けられても止むを得ないものがあつたという外ないが、然しこのような事実だけからは未だ前記の認定を左右するに足らず、原審証人三瓶虎雄、矢部喜四郎、小林四郎、玉木清二原審及び当審証人山崎藤吉の各証言中右の認定に反する部分は信用することが出来ない。他に右認定を覆すに足る証拠はない。
然らば同村農委の前叙各決議、該決議に基く各行政処分を以て不存在であるとなす控訴人の(二)(三)の請求は固より失当として排斥を免れない。
よつて進んで第一次売渡計画取消の処分が有効か否かについて考えるに、一般的に云つて行政庁は既に処分をした後であつても相当の事情があるときは自らその処分を取消すことが出来ると解すべきであつてこの点については当裁判所も原審と同一見解であるから茲に右の点に関する原判決理由中の記載を引用することとし、更に農地の売渡計画の取消についてこれをみるに、いう迄もなく自作農創設特別措置法に基く農地の売渡は第一順位の相手方として買収当時耕作の業務を営んでいた小作農に対して行われなければならないことは同法の根本原則であつて、もし事実の誤認や法令の誤解によつてこの原則にもとるような売渡手続が採られたとせば、それは同法の精神を無視するにひとしく公益の立場から到底認容することが出来ないものであるからたとえこれにより一応農地の所有関係が形成されたとしてもこの間長い年月を経た場合でない限り計画立案庁たる村農委は従前の小作人を自作農とする為右のような売渡計画を取消し得るものと解すべきであるところ、被控訴村農委の前記控訴人に対する第一次売渡計画なるものは前叙の如く曾て小作は固より自作すらしたことのない控訴人を相手方としたものであるから、小作人として第一順位の相手方たるべき前記被控訴人四名が買受を拒否した場合は格別、そうでない限りたとえ控訴人に対して売渡手続を完了したとしても前記の理由によりこれを取消し得べきものといわなければならない。而して判示冒頭の前段に採用した各証拠に原審証人佐藤彌吉、佐久間国二、佐藤宏の各証言、成立に争のない乙第一乃至第十号証及び原審における被控訴人藤雄、丑蔵、周三、ヨシイ各本人の供述を総合すれば、右四名の被控訴人は第一次売渡計画の樹立以前既に口頭を以て村農委に対し買受の申込をしていたものであることを看取するに十分であつて而も右買受申込は後記の通り有効と認むべきであるから村農委のした第一次売渡計画の取消処分には法律上何等間然するところがないものといわなければならない。本件において第一次売渡計画の売渡通知書が控訴人に交付された日時は必ずしも明白でないが成立に争のない甲第四号証、原審における控訴本人の供述によれば昭和二十五年四月中とみるべきで、もし然りとせば係争の取消処分当時は未だその売渡通知書は控訴人に交付されておらなかつたこととなるべく、買受代金を納入した日時が取消処分のあつた日の後たる昭和二十四年二月であることは控訴人の自陳するところである。然らば本件第一次売渡計画の取消処分は適法にして有効であり、右計画を前提とした福島県知事の売渡通知は売渡計画の取消に因り失効に帰したものと解すべきであるから結局控訴人は本件農地に対する所有権を取得することなくして終つたものというべきである。
なお控訴人は第一次売渡計画の取消決議は農地調整法(昭和二十年法律第二百四十号)第十五条の十八に違背し無効である旨及び前記四名の被控訴人の買受申込手続が違式であつて無効である旨を主張するが当裁判所は原審と同一の理由によつて該主張はいずれも理由がないものと考えるので原判決理由中この部分の記載を茲に引用する。
よつて更に進んで第二次売渡計画の樹立が違法であるか否について考えるに、第二次売渡計画の樹立が行われ且つその公告のなされたことは既に認定した通りであるところ、第一次売渡計画の取消が適法であつて控訴人が所有権を取得しなかつたものであること前叙の通りであり第二次売渡計画における売渡の相手方は法定第一順位の前記四名の被控訴人であつて他に何等違法の廉は存しないのであるから右第二順位の売渡計画の樹立を違法であるとしてこれが無効乃至取消を主張する控訴人の(四)(五)の請求も理由がなく、これ等理由のない事由に基く訴願を棄却した福島県農委の裁決の取消を求める請求も亦失当として棄却さるべきである。
最後に所有権確認の請求について考えるに、控訴人は前叙の通り結局本件農地の所有権を取得しなかつたのであるから、これが所有権を前提とする確認の請求は固より理由のないものとして棄却を免れないものというべきである。
以上の通り控訴人の本訴請求は全部理由がないのであるからこれを排斥した原判決を相当とし民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条に従い主文の通り判決する。
(裁判官 板垣市太郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)
(目録省略)